陰陽秉衡論 その2
「血は多くへれども死なず。気多くへれば忽ち死す。
吐血・金瘡・産後など、陰血大に失する者は、血を補へば、陽気いよいよ
つきて死す。気を補へば、生命をたもちて血も自ずから生ず。
古人も「血脱して気を補ふは、古聖人の法なり」といへり。
人身は陽常にすくなくして貴とく、陰常に多くしていやし。
故に陽を貴んでさかんにすべし。陰をいやしんで抑ふべし。
陽気を補へば陰血自(おのずから)生ず。もし陰不足を補わんとて、
地黄・知母・黄柏等、苦寒の薬を久しく服すれば、元陽をそこなひ、
胃の気衰えて、血を滋生せずして、陰血も亦消えぬべし。」*とあります。
*陰陽について素問には、人体の陰陽は相い対し、釣り合っているもので
あり、もし陰または陽が偏って勝っている時は、それに応じた病症が出る
ことを説明しています。
素問(黄帝内経素問)という医学書は、春秋戦国時代から前漢時代に至る
五百年ほどをかけて著されたもので、中国伝統医学のバイブルといわれて
います。そこには、陽を貴び陰を賤しむような説は出てきません。
古くから日本の漢方界には、陰陽五行を中心にして理論展開する黄帝内経
素問はあまり好まれず、むしろ臨床にすぐ役立つ内容といわれる傷寒論の
方が好まれて来ました。
私も、40年前に漢方を習い始めた頃は、傷寒論を暗記するまで読みなさい
といわれたものです。それは、読み下すのも難解でしたから、当然暗記な
ど出来ませんでした。初心者にも理解できる教科書のようなものでもあれば
良かったのですが、その頃はまだ見当たらず苦労したものです。